連載
蓬萊学園の揺動!
Episode05
主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされたために最後の大冒険に巻き込まれたんだか自ら飛び込んだんだかした末に、作者さえも気づいていなかった深淵なテーマに肉薄することで、真に驚くべき方法(ただしここの余白は狭すぎるので書ききれない)で学園を揺り動かし、史上最大の危機をしりぞけた!
(その3)
そして九月、新学期です。
わたし、生徒会長に立候補したんです。
緊張で揺れながら、ですけど。
壮烈な選挙戦がありました。勝ち抜くためには何だってやりました。裏取引も、二枚舌も、脂ぎった古参生徒たちとの握手会も。
そして見事当選です!
もちろん副会長候補・アミ先輩の人脈と、書記候補・京太くんの人間離れした情報収集能力のおかげもあったことは言うまでもありません。
そして最初の施策は――上級学生制度の撤廃です!
学食横町の料亭での政治工作、買収、盗聴、恐喝、陰謀、とてもここでは話しきれないほどのあれやこれやを経て、ついにこの議案はクラス代表会議に提出されました。
そしていよいよ法案が通過するという前日。
一発の銃弾が、わたしの小さな胸を貫いたのです!――
「……えええ〜〜!?」
わたしは叫びました。いつの間にか、もとの深夜の病室です。
そんなのアリなの!?
願いを叶えてくれるって言ったじゃない!
「僕だって万能じゃないんだから、そこ突っ込まれても困るね」美少年、唇をツンと尖らせます。「お前だって、ちゃんと応分の努力をしなくちゃ」
彼、頬も赤らめて、プイッと横を向きました。拗ねてます。可愛いです。くそう、可愛い連中は何やっても許されると思いやがって……まあ実際許されちゃうんですけど。
「だろ? 僕の美貌に抗しきれる奴なんかいないんだって」
くっ……憎しみで人が殺せたら!
「それ、元ネタがバレるよ」
え? 今のは『ゴーストスイーパー美神』からの引用ですけど。
「だからあれは、さらに元の……まあいいや。とにかく僕はやれるだけのことはやったからね」
そんなあああ!
もう一回お願いします! リロールさせてえ!
わたし、恥も外聞もなく彼のシルクの裾にすがりついたんです。ついでに土下座もしたので、彼の上質なシャツがポロリと片肌あらわに。
「こらこら! ――ちぇっ、しょうがないなあ。でも無償じゃやだよ」
おいくらぐらい?
「金なんかいるもんか、馬鹿馬鹿しい」
じゃあ何をあげれば……
「そうだねえ」彼の紅い唇のあいだから、もっと深く毒々しい朱の舌先がチラリと覗きました。「じゃあ、お前の――」
そして九月の新学期、わたしは生徒会長に立候補して見事当選しました。
もちろんアミ先輩や京太くんのおかげもありましたし、車イスで頑張るわたしの姿が大勢の生徒の共感を呼んだのも確かです。
クラス代表会議は制度撤廃に猛反対。そこまでは予想された動きでした。なにしろ野々宮グループの寄付金の額は天文学的なのです。
しかたなく、わたしは純粋蓬萊党との連立に踏みきりました。
すると今度は一般生徒からの不満が爆発。あちこちでクラ代のリコールが成立し、純粋蓬萊党の数は一気に減りました。仕方ないのでこちらも再リコール運動を仕掛け、代表会議は大混乱。とうとう学防軍が見るにみかねて大講堂と委員会センターを占拠。事態は急激に悪化して学園のあちこちで略奪と銃撃戦が始まります。そして流れ弾の一発が、わたしの胸を――
「……えええ、またあ?」
「賽の目が悪いねえ、お前も」
「じゃあもういっぺん! もういっぺんだけ!」
「はいはい。じゃあ今度はお前の――」
三度目の正直。
当選したわたしが最初におこなったのは、野々宮グループとの密約でした。
一期目はあまり大きな変革はおこなわず、二期目になってから学防軍とのコネを駆使して、学園内での裁判権を掌握します。
さらに狂的科学部と提携し、全生徒を監視しつつ行動を評価する〈ホウライ・リトルシスター〉計画を推進しました。ちょと可愛い女の子をイメージキャラにしたらクラス代表会議の審議もスンナリ通過です。
もちろん一部の生徒は学園裁判に訴えましたが、すでに裁判権は執行部が握っているのでギュウギュウ握りつぶします。ついでに訴え出た生徒たちの評価ポイントを下げました。
念のため、〈小鳥遊会長による新時代の楽しい蓬萊学園生活思想〉も発表しておきました。これを暗唱できない部長のいるクラブやサークルは、生徒会からの補助金半額です。
よし、これで完璧。
門外不出のはずの個人行動データは野々宮グループと共有して、あちらは大儲け、こちらは不穏分子を排除できて万々歳。
学園経済も好調で、暮らしぶりさえ良くなれば政治に口を出す生徒も激減です。学園内ネットで時折BLやケモナーが流行りましたが、これはガス抜きなのでお目こぼし。でもちょっとでも生徒会批判めいた作品が広まり始めたら突然のガサ入れで一網打尽です。
すると、ある晴れた朝、一発の弾丸がわたしの胸を――
「……えええ〜? これでもダメなのお〜!?」
わたし、また美少年の足元に泣きの土下座。
「もっぺん、もっぺんだけオナシャス!」
「しかたないなあ」って美少年、あきらかに楽しんでます。いや、こういうのは愉しんでますと表記すべきでしょうか。「じゃあ今度はね――」
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